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2003/06/29

6.物欲の夏

 こないだの月曜日に髪を切ってきた。もう2ヶ月くらい切っていなかったし、ここのところ急に暑くなってきたので、なにか急に鬱陶しくなってきたのだ。それからパーマがほどけて中途半端な髪型になってしまったせいもある。僕は昔から髪形が決まらないとすぐに憂鬱になってしまう性質なのだ。もう夏だからということもあって、今回はすっぱり短くしてきた。しばらく前から暑くなったらもっと短くしようと思っていたのだ。

 ところでここ1年くらいそういうことが多いのだけれど、美容室を出たあとというのは、何だか妙に嬉しくなっていろいろと予定外の買い物をしてしまうことが多い。特にこの日はカットだけでいつもよりも安く済んだせいもあって、みょ~に財布の紐が緩んでしまったのだ。これはいかん、いかんぞ。
 まあそうは言っても、もともと大した額は入っていないのだから、少々財布の紐が緩んだところで大したものが買えるわけではないのだけれど、でもそれはそれ、これはこれである。ちょっとリッチ&ハッピーな錯覚に陥った僕は、ブラブラとぶらつきながら上機嫌で横浜の街を見てまわっていた。まず最初はハンズ、それからその近くの雑貨屋、HMV、その上のビブレ、モアーズの中のサッカーショップ(マリノスのユニを買うかどうかしばらく悩んだが、長考の末今回もパス)、ABCマート、SHIPS、ユナイテッド・アローズ、ソニプラ、そごうの中の無印とLOFT……。正直歩いているだけで疲れる距離だが、ちょっと上機嫌だったのでそんなに気にはならず。土日じゃなくって月曜だったというのもよかった。やっぱり月曜日は人が少ないから。
 不思議なもので、髪を切ったあとというのはやたらに服が欲しくなるのである。本やCDはいらない。服といっても「夏なんだからTシャツにショートパンツにサンダルでいいじゃないか」というのはすごくあるのだけど、それでもちょっと気持ちが高揚しているせいか、みょ~に服が欲しくなってしまうのである。Tシャツなんて着てないのがうちにいくらもあるというのに、まったくこれはいったいどうした作用なのだろう??

 実はこの3日前の金曜日に、僕は同じこの横浜に来ていた。もう1ヶ月も前からエミネム主演の「8 Mile」の前売り券を買ってあったのだが、生来ズボラな僕は、結局最終上演日になってからようやくバタバタと横浜まで出てきたのだ。やはり1300円をムダにするわけにはいかないから。たぶんこの性格は一生直らないだろうな。まあ別にいいんだけどさ。
 映画自体は良かった。事前の期待度が高い映画というのは往々にして期待ハズレに終わることが多いものだが、この映画はその期待を裏切らなかった。この映画のことについてはいずれその一部をここで書くことになると思うので今回は書かないけれど、映画を見ながら食べようと思ってカバンに忍ばせてきたパンの存在を映画が終わってからようやく思い出したと書いておけば、だいたいの感じは伝わると思う。

 さて、映画を見終わったあとはまだ少し時間に余裕があったので、ひさびさに横浜の繁華街をぶらついていたのだが、映画が良かった割には僕の気分はあまりすぐれなかった。理由は……たぶんあらかたお気づきだとは思うけれど、中途半端に伸びて鬱陶しくなったこの頭である。耐えかねて髪を切りに行くわずか3日前のことだったから、当然僕の頭は収拾のつかないヘンなことになっていた。正直それが理由で家から出たくなかったくらいだ。まったく僕は髪形ひとつですぐに憂鬱になってしまう。
 その日は金曜日の夕方だったせいか、通りにはやけに人が多かった。人が多すぎてまっすぐ歩けない。暑かったこともあって、多くの人はちょっと夏っぽい感じの露出の多い服を着ている。夏向けに髪を明るくしている人も多かったし、どこか全体に夏特有の浮ついた開放感みたいなものが漂っていた。僕の目には道ゆく人がみんなオシャレに見える。
 僕はそのとき、服装的には決してひどい格好をしていたというわけではなかったのだが、でもまわりの人たちに較べると、なんだか自分がひどくイケてないというか、ダメな人間であるように思えた。そこらを歩いている人たちがどこか自分のことを見下しているというか、自分がここにはふさわしくない人間であるような気がしてならなかった。どこか蔑まれているというか、居場所がないという感覚である。

 「まるであの頃みたいだな」と思ったのはそのときだった。この「あの頃」というのは、街に出るたびに道ゆく人すべてに見下されているような被害感を感じて、「こんな思いをするくらいならもう外には出たくないな」と感じるようになった5年ぐらい前の「あの頃」のことである。その時点では僕はまだ通院すら始めていない。深く生ぬるい泥の中だ。コールタールのようなぬかるみの中。あがいても悩んでも、声の限りに叫んでみても、どこにも行けやしない。
 金曜日の横浜の雑踏の中で、僕は不意にそういう感覚に囚われたわけだ。そんな気分はもう何年も味わったことはなかったというのに。なんというか、ちょっとしたデジャ・ヴュみたいな感覚だった。
 そして「あの頃と同じ」感覚を思い出した僕は、しばらく所在なげにそこらをブラブラしていたのだけれど、特に買い物はせずに、そそくさと横浜をあとにして電車に乗って家に帰った。なんとなく気分が晴れなかったし、それにこれ以上ここにいても仕方がないと思ったからだ。それにこんなみっともない頭じゃ買い物なんてとてもできない。

 その3日後の月曜日、僕はまた同じ横浜の雑踏(今日はちょっと人少なめ)の中にいた。
 髪を切って上機嫌になった僕は、喜びついでにあれこれ服を見ていたのだが、そのとき不意に、自分が3日前とは全然違う精神状態でいるということを発見したのだ。そういえば若くシャレた格好の人たちを見ても特に気にならない。劣等感も感じない。むしろ自分が彼らの一員になったかのようにさえ感じる。優越感とまでは言わないにしても、でもそれに近しい感覚だ。なんだかこの街全体が自分の居場所であるように感じられる。どこにいても気分がラクなんだ。
 考えてみれば、この3日間で変わったものは何もない。同じ街の同じ店、同じ通りに僕は立っている。変わったのは僕の髪形と心の持ちようだけ。それなのにこんなに違う。店員さんの表情や、まわりの景色の色彩までもが違って見えた。そうか、そうなんだ。そこで僕はひとつのことを納得できた。
 つまり、僕が「なんとなくイケてない、見下されている」と感じていたのは、他人がどうのこうのなのではなくて、本当に自分が自分を認められていなかったからだったんだ。よく他人の目っていうけれど、あれはある意味自分の目なのだ。他の誰でもなく自分が自分を肯定できていないから、他人が自分を責めているように感じるのだ。前からそうじゃないかと思ってはいたけれど、やはりあれは自分の意識が投影された「影」であり、僕は鏡に映った自分自身の姿を恐れていたのだ。ふうん、なるほどね。

 そんなことを考えてひとり合点がいった僕は、そのまま買い物を続けて結局1万円以上も散財してしまった。スタンド付きの鏡をひとつ(1900円)と雑貨屋で買ったスタンドラック(1000円。これは安い)、ユナイテッド・アローズで見つけたグリーンの半袖シャツ(6800円もした。高けーよ)、それから最後に、NOVAうさぎの柄のついたチープなTシャツが1枚(2900円。これは母にあげた)。ほんとはほかにも欲しいものがたくさんたくさんあったのだけど(いい加減サンダルも買わなきゃね。前のは吐きつぶして壊しちゃったから)、予算は限られているのでとりあえずここまででやめにする。

 それにしても今回、結局は自己肯定感なんだなあとあらためて思った。まあ自己肯定感があれば、ぱーっと散財してもいいのかと言われると、僕としては答えに詰まってしまうわけだけれど、まあそれはそれ、これはこれである。やっぱり人間ハッピーな方がいいじゃないですか。
 というわけで、ユナイテッド・アローズのバーゲンは7月3日からだよな、などと性懲りもなくネットでチェックしているしょうがないワタクシでした。でも、アローズでは金が足りなくて買えなかったものがまだいっぱいあったんだよ。うん。

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