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2003/09/07

13.東京ヴェルディ

 こないだ「アンチ巨人」についての話を書いたけれど、僕が阪神ファンであるせいか、東京ヴェルディというクラブのことも好きになれない。というか、はっきりいってキライである。Jリーグ創設の頃にひとりだけ企業名をつけて「読売ヴェルディ」とかいってたのも気に入らないし、地元をおろそかにしたばかりか、自分らを巨人と同一視して「俺たちは全国区だから」といった驕りが見えたのもかなりいけ好かなかった。
 ヴェルディはいまではかつての栄光をすっかり失って毎年のように低迷を続けているわけだけれど、ヴェルディのクラブとしての本質的な姿勢みたいなものは以前とあまり変わっていないようにみえるし、どうも読売嫌いが身体に染みついてしまっているせいか、このチームを少しでも応援してあげようという気には全然なれずにいる。というかむしろ、「早く2部に落ちればいいのに」とずっと思いつづけている。ヴェルディが2部に落ちたらJ2も活性化して結構面白いことになるんじゃないかという気がするんだけどな。そうでもないのかな。

 ともかくそんなふうだから、おととしの7月にヴェルディ対名古屋グランパスの試合を見に行ったときには、ひそかに期待していたというか、楽しみにしていたことがあった。試合前の選手紹介のときに、ヴェルディとヴェルディ・サポーターを思いっきりブーイングしてやろうと思っていたのだ。ちょうどその頃のヴェルディはリーグの最下位を独走していて、2部降格の最有力候補だったし、ヴェルディを応援してるやつらなんてみんなアホみたいな連中に違いないから、思いっきりブーイングしてやるにはいい機会だと思っていたのだ。その日わざわざヴェルディのホームゲームを見に行ったのは、「ピクシー」ことストイコビッチの現役最後の試合だったからであって、ヴェルディが見たくて行ったわけではない。全然ない。

 でも結果からいうと、僕はこの日、ヴェルディのサポーターに対してブーイングをすることができなかった。なにしろ数が少ないのだ、ヴェルディ・サポーターの数。この日の東京スタジアム(現・味の素スタジアム)の観衆は4万3千人、スタンドはストイコビッチの最後のプレーを見ようという人たちでほぼ満員に膨れあがっていたのだが、にもかかわらずゴール裏の緑の集団はほんのちょっとしか見えなかった。たぶん100人から200人、せいぜい見積もっても300人というところではなかったか。とてもじゃないけどかつてリーグ2連覇を達成したクラブとは思えないし、正直J2のクラブかと思った。いや、J2のクラブだってもう少し多いかもしれない。ヴェルディはこの年に本拠地を川崎から東京に移してきたのだが、東京の人というのは、その多くが以前からあるFC東京を応援するので、地元であってもヴェルディを応援する人は少ないのだ。ヴェルディのことなんかみんなして知らんぷりしている。
 しかもその日はグランパスのサポーターが大挙して押し寄せたため(もちろん彼らもストイコビッチの最後の勇姿を見届けるためにここまで来たわけだ)、東京での試合だというのに、どう見てもグランパスのホームゲームにしか見えなかった。ゴール裏スタンドの片側はすでに真っ赤に染まっていたし、サポーターの数だけでいったら、たぶん30対1ぐらいの割合ではなかっただろうか。あるいはもっと。

 それまで僕はヴェルディのサポーターを思いっきりブーイングしてやるつもりで気合満々だったのだけれど、彼らの姿を見ていたらすっかり気持ちが萎えてしまった。それはもちろん、あまりの数の少なさを見てだんだん気の毒になってきたというのもあったけれど、それよりももっと大きかったのは、彼らが本物のサポーターであるということに気がついたからだ。
 彼らは数こそ少ないものの、本当にヴェルディのことが好きで好きで、チームがずっと負けつづけているにもかかわらず(あるいはチームが負け続けているこんなときだからこそ)、こうしてスタジアムまで足を運んで熱心に応援を続けているのだ。決して「いまはこのチームが強いから」と付和雷同的に応援するチームを変えたりするようなやつらなどではない。彼らは本物のサポーターなのだ。そういう人たちに向かってブーイングだなんて、いったい誰にできるだろう?

 それから4ヵ月後の11月に、また東京スタジアムに行く機会があった。このとき見たのはヴェルディ対FC東京の「東京ダービー」。2001年2ndステージの最終節である。
 「ダービー」というのは、基本的には同じ街を本拠地とするクラブどうしの対戦のことで、双方のクラブおよびサポーターは、お互いに対して強いライバル心(あるいは敵愾心)を抱いていることが多いから、ダービーマッチというのはいつもよりずっと盛り上がることが多いのだ。そしていまのところ、この手のダービーマッチが見られるのはこの東京だけである。
 もちろん僕が応援していたのはFC東京の方。ブーイングこそしないが、それでもヴェルディなんて間違っても応援する気にはなれないし、しかもこの日は01年のリーグ最終戦で、ヴェルディはJ2降格の瀬戸際に立たされていた。この日負ければヴェルディはJ2降格が濃厚。たとえ勝っても、残留を争う横浜と福岡の結果次第では2部への降格が決まるという試合だった。ダービーマッチが見られるうえに、「名門」ヴェルディの惨めな姿が見られる(しかも引導を渡す相手はよりによって同じ街のクラブだ)なんて最高じゃないかと僕は思った。まさに記念碑的な1日。こんないいものを見逃すなんて、そんなのもったいなさすぎる。

 さて、試合が始まってからの僕はといえば、ピッチの上ではなく、ほとんどFCサポーターの方を見て過ごしていた。試合そのものよりもサポーターを見ている方がずっと面白かったからだ。
 まず試合開始からしばらくすると、突然全員で声をそろえて「福岡先制!福岡先制!」と叫んで相手を動揺させ(もちろん福岡が先制したというのは真っ赤なウソ。でも他会場の試合経過は携帯で調べられるから、一瞬マジかと思った)、相手キーパーがボールを蹴ろうとするとそのたびに茶々を入れて相手をおちょくっていた。しかしそれは海外によくあるようなプレー妨害のための悪辣な嫌がらせではなくて、半ばふざけているというか、楽しんでいるような感じのヤジ行為だった。しかもどこでどう示しあわせているのか、大勢のサポーターが一斉に同じことを言うのだ。こういうのを見ていると、傍観者の僕であってもなんだか妙ににんまりさせられてしまう。
 FCサポーターの特徴はただ単におもしろいというだけではなかった。味方の選手が緩慢なプレーをすれば、サポーター席からは容赦なく厳しいヤジやブーイングが飛んでくる。東京のサポーターというと横浜なんかと同じで、割とおとなしいイメージを抱いてしまうのだが、実際はそんなことはない。横浜みたいに声が黄色くないし、かなりえげつないヤジを飛ばしたりもする。でもそのえげつなさというのは、徹底的に相手を邪魔するようなヒステリックな態度のそれではなくて、どこか遊び心のある、余裕のあるえげつなさだ。決して人の胸クソを悪くするようなものではない。そこは首都に住む人間のセンスというか、洗練さみたいなものが表れているのかもしれない。

 ところで結局、サポーター席のおもしろさとは対照的に、試合は退屈な展開のままに推移し、ヴェルディが前半に奪った先取点を守りきって地味~に終了のホイッスルを迎えた。スコアは1-0。地味というよりか、内容だけ見ればべつに見なくてもいいような試合だ。
 しかも最悪なことには、残留を争う福岡が負けたことで、ヴェルディのJ1残留が決まるというおまけまでついてしまった。まったくなんてこった、せっかくヴェルディの2部落ちが見れると思って楽しみにしてきたのに。うつろな目でピッチの方を見やると、ヴェルディのイレブンと監督がピッチの上に飛び出して抱き合って喜んでいる。僕は客席でガッカリしている。まあ横浜がJ1に残ったのはせめてもの救いだったけれど、でも僕としてはやはり落胆しないわけにはいかなかった。まったくいったい何のためにここまで来たんだか……。

 当然FC東京のサポーターも、この結果にはすごくガッカリしているものだと思っていた。ダービーマッチで負けた上に、降格寸前だった「川崎」ヴェルディが目の前で1部残留を決めてしまったのだから、ライバルチームのファンからすれば面白かろうはずがない。たぶん巨人に負けたときの阪神ファンの心境みたいなものだろう。
 しかし僕のそういった予想(あるいは期待)は間違っていた。試合が終わってしばらくすると、FC側のサポーター席からは拍手が起こり、スタンドの最前列からは「サヨナラべるで~、なんて言うと思った?」とか、「来年もまたダービーやろうぜ~」といった垂れ幕が次々に下ろされたのだ。
 僕は一瞬わが目を疑ったが、しばらくしてからようやく状況が呑み込めてきた。つまり、彼らが試合中にさんざんに「川崎帰れ!」などと罵っていたのは、半ばただのパフォーマンスみたいなもので、彼らはヴェルディの降格なんか望んじゃいなかったのだ。いや、少しは望んでいたかもしれないけれど、少なくとも僕とは違って、1部残留を果たした相手に向かって拍手を送るぐらいの寛容さはあったわけだ。まったくなんてこった。

 それは美しい光景だった。J1残留を祝福された緑のサポーターからは、じきにFC東京コールが起こる。それは少ない人数を感じさせないほどの大きなエールだ。ヴェルディの選手たちが赤と青のサポーター席に向かって手を振っているのが見える。そしてそのあとには、FCサポーターのスタンドから祝福と返礼のヴェルディ・コールが起きる。彼らの多くは声を合わせて叫んでいる。「東京ヴェルディ!」と。

 東京スタジアムから調布の駅へと歩く道すがら、僕はちょっとばかり落ち込んでいた。そしてその時の感覚は、いまでも僕の中に苦い記憶として残っている。それは、「ほんとに自分は心が狭かったよな、もう少し寛容になれなかったのかな」といった後悔と恥ずかしさの念だ。もっと素直にヴェルディの残留を祝福してあげてもよかったのにな、と。
……とは言いつつも、あれから2年近くが経ったいまでも、僕は相変わらずヴェルディの2部落ちを望んでいたりする。「早く落ちろー、早く落ちろー」って、毎年のように思っている。totoをやるときには意地でもヴェルディの勝ちには印をつけない。それが習慣なのだ。すみません、つくづく進歩のない奴で。でもいちど染みついてしまった気持ちというのはそう簡単には消えてくれないものなのです。野球でいったって、そんなに簡単に巨人のことが好きになれるわけじゃないものね。まあそういうことでお許しください。多少の努力は……しているつもりなのですが。とほほ。
 しかしそれにしても、あの日はなかなかいいものを見れたよな、うん。

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