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2003/09/14

14.太る…

 25を過ぎたら太るようになった。歳を取るというのは恐ろしいものだな、といまさらながら思う。僕のことを直接知っている人にはまず信じてもらえないと思うけど、むかしはこんなんじゃなかった。もっと痩せてた。いや、ほんとです。ほんとです。ほんとです。

 いま僕は身長が166cmなのだけど、体重はたぶん63キロから64のあいだぐらいだと思う。ここで、「たぶん63キロから64のあいだぐらい」という曖昧なことばを使わざるを得ないのは、日々サッカーのトレーニングがきつくて体重の変動が激しいから……といった理由ではもちろんなくて(そんなもんやってないって)、あのクソいまいましい体重計なるものに全然乗っていないからである。そういや全然乗ってないな。
 ここ何ヶ月かのあいだ、「そういえばうちの体重計はどこに行ったのだろう??」とずっと疑問に思っていたのだけれど、こないだ物置部屋を捜索していたら、偶然ほこりだらけになった体重計の死骸を発見することになった。ただでさえ場所を取るうえに誰にも使用されることがないので、僕の知らないあいだに誰かの手で幽閉されてしまったのかもしれない。あるいは歯医者の待合室に漂うあの独特の匂いみたいに家族のみんなから不当に憎まれているので、いじけた猫のように自ら姿をくらましてしまったのかもしれない。すまない、悪いことをした……とは全然思っていないけれど。はは、ごめんよ。

 いまは体重が63から64のあたりと書いたけど、いまから10年ぐらい前(つまり大学に入った18,9の頃)はだいたい51から52キロというところだった。その間身長は変わっていない。体重だけが変わっている。約々25%の増量。身長が166で体重が50キロちょっとだったから、当然身体はガリガリに痩せていて、あばら骨は束になって見えていた。
 その頃はとにかく量を食べるということができなくて、「体重が増える」という人がうらやましかったのを憶えている。決してマッチョになりたかったわけではなかったのだが、でもあばらの浮き出た自分の身体がいやでいやで仕方がなかったのだ。あれはどう見たって見映えのするもんじゃないから。
 そんなわけで、当時の目標は体重を55キロに乗せることだったのだけど、その目標はなかなか達成されることはなかった。54まではなんとか行っても、そのひとつ先の壁が高かった。全然太らない。その頃はそういう体質だったのかもしれないし、食べ物よりも先にCDにお金が消えるという生活を送っていたから、あるいはそのせいだったのかもしれない。

 大学在学中はそんな状態がずっと続いていたのだが、ある時信じられない変化が起こる。ある日何気なく体重計に乗ってみたら、針が62キロを指したのである。ごく控えめに表現して、僕はものすごくものすごく驚いた。なにせその前計った時は53か4ぐらいだったのだ。きっと何かの間違いに違いないと思って何度か乗り直したり、体重計を別の場所に置いて試したりもしたのだが、何度やっても結果は同じだった。62キロ。62キロ。62キロ。全然変わらない。
でも、そうなっても、「げげ!大変だ!!」というふうには思わなかった。むしろちょっと嬉しかったくらいだ。自分では全然気がつかなかったけれど、いつの間にかあのあばらの浮き出た貧相な身体とおさらばできたわけだし、なんだか自分がちょっと違う人間になれたような気持ちだってした。
 このとき急に体重が増えた理由は、おそらくその頃していた肉体労働的なバイトの賜物だったのだろうと思う。というか、それしか思い当たるフシがないから、それ以外には考えられない。もっともバイトとはいっても、これは祖父のところの手伝いで、1ヶ月ほど重い荷物を運んだり畑をつくったりということを繰り返していたら、いつの間にかそうなってしまったのである。僕にはその自覚は全然なかった。そういえばあの頃は肉体労働の疲れで、毎日暇さえあればくたくたと泥のように鉛のように眠っていたから、肉体的な負荷という点ではかなりのものがあったのかもしれない。

 一気に体重が増えたことで、最初は僕もちょっと喜んでいたのだが、しばらくしてから困った事態が勃発した。増えた体重が減らないのである。しかも食べれば食べただけ太ってしまう。
 以前は「やせるのは簡単だけど、太るのはむずかしい」だったのに、体重が60のラインを超えた途端に、「太るのは簡単だけど、やせるのはすごくむずかしい」へと転化してしまった。60キロを境にして、いろんなものが前とはすっかり逆になってしまったわけだ。いやはや、ものごとの変化というのはまったく恐ろしいもので。
 そしてそれ以降体重はほとんど減っていない。体重が64までいったときには生まれてはじめてダイエットを志したりもしたのだが、思っただけで実行には全然至らなかった。そのうち元に戻るかな?ということも考えたのだけど、そういうことも全然なかった。ちなみにいままでの最高は66キロ。身長と同じ。このときはさすがにやばいと思った。体重が身長を超えたらそれはまずいですぜ。

 高校の時から仲のよかった友だちと顔を合わせる機会がたまにあるのだけど、彼は僕と会うたびに「お前は太った、それにしても太った」と言ってくれる。しかも開口一番にそれだ。<おまえほかに言うことはないのか>と毎回のように思うのだけど、でも一方では、それもまた仕方がないのだろうなとも思う。なにせ彼の中にある僕のイメージはといえば、まさしくあばらが浮き出てガリガリに痩せていた頃のイメージにとどまっているのだから。会うたんびに太った太った言いたくなる気持ちは、まあわからないでもない。わからないでもない。
 一方最近の友だちの場合は、「いや、昔は痩せてたんだよー」って言っても誰も信じてくれない。全然信じてくれない。ある人に「まえは50キロちょっとしかなかったんですよー」って言ったら、彼はしばし絶句したあと、ぽつりと呟いた。「信じられない……」。
 彼もショックみたいだったけど、でも僕はもっとショックだった。だって、いくらなんでもそんなリアクションすることないじゃないですか。いやまあ、その気持ちは……わからなくはないけど……。でもね。

 と、そんなことを書いていたら、急にふと「いま体重どれくらいなんだろう?」と思いたって、さっき久々に体重計に乗ってみた。ここのところ何人かの人から「やせたね」って言われてたから、ちょっと乗ってもいいかな~という気になったのだ。
 そしたらやったね! 61キロですよ。予想より2キロも少ない。やっぱりやせてたんだ。うわ、なーんかすっげぇ得した気分。特にダイエットやワークアウトをしてたわけでもないのに、2キロも減だなんて。やっぱいるんだよ神様、誰だよ「ことしは阪神の優勝で運を使い果たした」なんて言ったやつ。

 ……などとうかれていると、じきにリバウンドが来てしまうのが減量の怖いところであります。はい。それにもうじき秋だもんね。そういや去年も無残にはね返ったもんね。ちっ。やはり良いことは1年にひとつのようである。

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