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2003/09/21

15.プロジェクトX

 「プロジェクトX」という番組、好きですか? 僕はあまり好きではありません。なぜかと聞かれてもちょっと答えに詰まってしまうのですが、でも何となく「いやだな」という思いを抱いてしまうのです。
 いや、これはこの番組そのものに対してということではなくて、むしろこの番組をとりまく空気みたいなものが好きになれないのです。なんかうまく言えないんだけど。

 以前は好きでした。僕はたまたま第1回の放送を見たのですが(富士山レーダーの回ね)、これは実に見応えがありました。営利のためでもなく、自分たちの名誉のためでもなく、ただ台風の被害から多くの人の命を救いたいという純粋な情熱あるいは使命感からあの困難なプロジェクトを立案して達成した過程は、見ていて大きな感動を覚えるものがありました。「よく知らなかったけど、日本にはすごい人たちがいたんだな」と思わせるものがありました。その後の放送も、見るたびにそういうことを感じさせられました。そこまではよかったです。そこまでは。でもね。

 この番組が中島みゆきの主題歌とともに大ヒットして(特に中高年のあいだで人気が高まって)再放送が頻繁に流されたり、ビデオや書籍などの関連商品が嵐のように売れ出すころになると、何かが変わってきました。少なくとも僕にはそう思えました。あの熱気はなんかヘンでした。はっきり言って、ちょっと気持ち悪かったです。
 これは僕の思いすごしに過ぎないのかもしれないけれど、でも彼らの抱く興奮や熱気、そしてこの番組を取り巻く空気というのは、そのプロジェクトの素晴らしさについてというよりはむしろ、「日本はすごかったんだ、俺たちはすごかったんだ」という過去へのノスタルジーに支配されていったように感じられました。感動の思いが過去へ過去へと流れているように思えてならなかった。そしてそれと同時に、僕の中には何か言葉にならない苛立ちのような感覚がありました。何がと言われてもうまく言えないのだけど、でも何かが気に障るのです。非常に感覚的な表現で申し訳ないのですが。

 感覚的なことばかり言っていてもしょうがないので、ちょっとした具体例をひとつ。
 前に仲間うちで話をしていてこの番組の話になったときに、ある女性が「あの番組は好きじゃない。だって女が全然出てこないじゃない」というようなことを言いました。
 この意見には僕もはっとしました。僕はそれを聞くまでそのことに全然気づかなかったんだけれど(やっぱ自分が男だから?)、そういえばこの番組に出てくるのはほとんど男ばかりで、女性というのはあくまで男性をサポートしたり、家にいて家庭を守る役割としか出てこないような気がします。
 もちろん昔のことだから、ある程度そういう傾向は出るのはやむを得ないでしょう。良いも悪いも、なにしろそういう時代だったのだから。でも「それでもなあ」と思ったこともまた事実です。あるいはこの番組の内外では、そういった社会の在り方みたいなものがレイドバック的にそこはかとなく期待されているのかもしれません。どうなんだろうね?(どうなんでしょう?) これは一考に値するかもしれません。

 ところで、少し話が飛ぶようですが、「プロジェクトX」を見て喜んでいる人たちというのは、僕の目には戦艦大和を愛してやまない人たちにダブって見えます。大和の愛好家というか、マニアな人たちに。
 僕はミリタリー関係のことは全然詳しくないのですが、戦艦大和というのは、軍艦としては大変な技術力でもって造られた船なんだそうです。戦後、大和について調査したアメリカ軍が、「船自体はともかく、この主砲の砲塔については、我が国の技術をもってしても同じものは造れない」といったような報告を出したというような話もどこかで読みました。
 まあ航空戦力主流の時代においては、でかいだけで燃料食いすぎの、いささか時代遅れな代物ではあったかもしれませんが、でもともかく、いろんな意味で文字どおりの「超弩級」戦艦であったことはたしかなようです。また、それだからこそ一部の大和愛好家にすれば、「大和はすごかった。そんな大和を造った日本もすごかったんだ」ということになるようです。
 でも、考えてみてほしいのは、じゃあなぜその「すごい大和」を造った日本があの戦争に負けてしまったのか?ということです。なぜそんな「すごい」国があんな無益な戦争をしたのか? なぜあんな軍国主義に走ってしまったのか? なぜ誰もそれを止められなかったのか? そもそも大和は1回でも活躍したのか?
 戦艦大和のすごさについてはだいたいわかりました。でも大和がすごかったからといって、それを造った国も「すごかった」というのはやはりどこかずれていますよね? 戦艦大和の存在が大日本帝国の優秀さを示すものになるとはとても言えないはずです。それは結果を見れば一目瞭然だし、大和の素晴らしさを称えるよりも先に考えるべきことはあるはずです。少なくとも僕はそう思う。

 で、「プロジェクトX」の話に戻ります。あるいはその熱心なファンの話。
 「日本はすごかった」。ここまではいいです。敗戦後の焼け野原から立ち直って急激な高度成長を果たし、世界有数の経済大国になった。こういう番組で取り上げられる素晴らしいプロジェクトをいくつもいくつも成功させた。日本も日本人もすごかった。たしかにそうかもしれない。
 でも、僕を含む多くの人が疑問に思うのは――これは「大和」のときと同じように――なぜその「すごい日本」がダメになっちゃったのか?ということです。なぜその「すごい日本」が、いまのような先の見えない閉塞状況に陥ってしまったのか。なぜいつまでたってもそこから抜け出すことができずにいるのか。なぜその「すごい日本」をつくりあげてきた人たちが窓際に追いやられているのか。リストラされて職を失っているのか。自信を失っているのか。居場所を失っているのか。果たして彼らファンの人たちはこの問いに答えることができるのでしょうか。悪いけど、僕には甚だ疑問です。

 誤解のないよう言い添えておきますが、僕はこの番組のことを責めるつもりはありません。この番組がそういう一部のノスタルジックな風潮の助長を意図したうえで作られているというつもりもありません(まさかね)。でも、そうなる危険性みたいなものについてはある程度自覚的であってもいいんじゃないかなというのが、一視聴者としてのささやかな私見ではあります。送り手側にはそういう意識はなくとも、受け手側がそれとは違う解釈をする可能性までは否定できないのではないか。また人気番組というプレッシャーの中、「視聴者の期待」に応えようとして、知らぬ間に番組の雰囲気が当初の意図とは違った方向に誘導されてしまう可能性もないとは言い切れないのではないか。たとえ結果的にではあっても、影響力のあるテレビ局がそういった現実逃避的な風潮を助長しているのだとしたら、それはやはり問題視されるべきなのではないか。

 さてさて、最近は多少下火にはなったようだけど、「プロジェクトX」はいまもまだ根強い人気があるようです。放送開始からこれほど長いあいだ番組が続いているということは、それだけいまもこの番組を見ている人が多いということなのでしょうし、また、中島美幸の歌う主題歌が150週ものあいだ連続でチャートインしている事実をもっても、この番組の人気の高さは容易に想像できます。「プロジェクトX」は、すでにちょっとした長寿番組の仲間入りを果たしているのかもしれません。少なくともNHKの看板番組になっていることだけはたしかでしょう。

 でも、「もういい加減にしてもらえないかな」というのが僕の率直な感想です。
 これはきっと多くの人が抱く疑問だと思うけど、あれほどのすぐれたプロジェクトやエピソードがそんなに無尽蔵に存在するのでしょうか。取材したものをすべて番組として使えるわけでもないだろうし、企画段階でボツになったものだってかなりあるはずです。最近ではほとんど見ていないからよくわからないけど、いかに天下のNHKが力を入れているとはいえ、あれだけのレベルのものを毎週維持するというのはかなり困難なことであるように僕には思えます。そして実際、最近では放送の半分ぐらいが以前やったもののアンコール。といえば聞こえはいいが実質は穴埋め再放送。そこまでして番組を続ける(番組が続く)理由はいったい何なのか。
 実際、たまにこの番組にチャンネルが合うと、いつかどこかで見たようなことの繰り返しです。プロジェクトに関わるのは陽の当たらない部署にいる技術者たちで、皆会社人間で、長い苦労の末に何がしかの達成を成し遂げる。だいたいはそういうことの繰り返し。あとはおなじみのエンドロールと<ヘッドライト・テールライト>。決して退屈とまでは言わないけど、でも昔に較べたら番組の質がいくぶん落ちているように思えます。以前に較べると何かが欠けているような気がするし、「なんだ、まだやってるのかよ」とつい思ってしまう。

 僕は彼ら「挑戦者」たちが成し遂げたことを非難するつもりはさらさらありません。ひとつひとつの仕事はどれもすばらしいと思う。でも、過去の偉業やノスタルジーの話はもういいのではないでしょうか。その手の話は124回(03年9月20日現在)もやればもう充分でしょう。

 もういい加減現実に目をつぶるのはなしにして、なぜこうなってしまったのかを真剣に考えてほしいと思う。この番組のファンの人たちに、この国を作ってきた人たちに、考えてほしい。この国の閉塞状況はいったいいつになったら解消されるのか。この国はいったいどこで道を踏み誤ってしまったのか。何がまずかったのか。その責任はいったい誰にあるのか。この国が抱える莫大な額の借金――しかもこのうえまだ増やそうとしてる――はいったいどうするのか。
 こういう言い方はあまりしたくないけれど、彼らの世代に残された時間はそれほど多くはないはずです。それともそういう「あとかたづけ」的な仕事は、そのあとの世代が負うべき負債なのでしょうか。借金取りに取り立てを迫られるのは、僕らの仕事なのでしょうか。

 まあ僕の率直な感想を言わせてもらえば、「戦艦大和」といっしょに海中深く沈むようなことは、できたらしたくないんですけれどね。いや、これはほんと、マジメな話。

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コメント

何の因果か、今通りすがりに読んだ者です。
凄く面白い内容ですね。
プロジェクトXに女性の話が無事には驚きを感じました。
そして何故僕は途中から見るのを止めたのか、その理由も分かりました。
あの気持ちが、こんな簡潔な形で明文化されるとは、なんとも不思議な気持ちです。
よい記事をありがとうございます。

あと、無知な僕としては、大和は好きで嫌いな船です。
大和の悲劇が、他の無念すら感じる間もなく沈んだ人々の事を隠しているように感じて嫌なのです。
思い込みかもしれませんが、こう思っています。
それでは、失礼します。

投稿: 邦浪のA.T. | 2008/06/16 21:44

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