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2003/11/30

24.2003日本シリーズ観戦記・抜け毛という概念の有無について

 もうひと月以上まえの話だけど、阪神は甲子園球場まで行って2003年の日本シリーズを見てきた。考えてみれば日本シリーズなんてものを見るのは86年の西武対広島以来17年ぶり……というのはもちろん真っ赤なウソで、去年見てきました。巨人対西武:東京ドーム第2戦。桑田が投げて巨人の連勝、そのあと巨人がふたつ勝ってあっという間にシリーズは終わりというとほほなシーズンである。勝敗はともかく、せめて実力の伯仲した好ゲームは見れると思っていたのに、その期待すらあっさりと裏切られた。あれほど事前の期待度と事後の結果が食い違ったシリーズというのもめずらしいかもしれない。
 去年も今年も、よく日本シリーズのチケットが取れましたねと何人かの人から言われたけど、これはネットの抽選で申し込んだからである(去年はイープラスで、今年はチケットぴあ)。チケットを買うためのもっともポピュラーな方法はもちろん一般発売の電話予約なんだけど、結論から言うとこれはまず繋がらない。なにより競争率が違うし、転売目的で大量にチケットをおさえる業者が幅を利かせる。一般人が何の策もなく電話をかけて見事チケットをゲットできる確率というのは、実際のところかなり少ないのではあるまいか。
 それから言えば、ネットでの抽選に申し込んだ方が確率はいくらか高い。もちろん抽選なので当たり外れの運はあるけれど、申し込みさえ済ませてしまえばあとは何もしなくていいし、運の部分は「数撃ちゃ当たる」の精神で多少はどうにかなる。

 取ったチケットは甲子園での初戦である第3戦だったので、前日の移動日の日に大阪に入る。ホークス2連勝のあとの3戦目だったせいか、難波にあるチケットショップをいくつかふらっと見たら、普通ではまず手に入らないはずのチケットがごくふつうに並んでいたので驚いた。暇にまかせていくつか見てみたけど、相場はだいたい定価の5倍ないし6倍前後。金券屋より安いとされるヤフーオークションでさえ定価の10倍は平気でついていたことを考えると、この金額は半ば破格のお値段と言っていいかもしれない。もっとも、これが阪神2連勝のあとの第3戦、このままいけば甲子園での胴上げもあり得るというチケットだったら、話はまただいぶ違うものになっていただろう。

 阪神電車を降りて甲子園球場に着いたのは午後の3時。しばらく外で時間をつぶしたあと、開門と同時に中に入る。阪神の打撃練習はすでに終わっていて、グラウンドではホークスの選手たちがめいめいにバッティング練習を行っていた。バルテスやズレータ、大越や本間などの姿が見える。ビジターのゲームではあるが、ダイエーの選手たちはこころなしかみな伸び伸びゆったりと汗を流しているように見える。バッティングゲージのそばにはユニフォーム姿の王監督の姿も見えたが、すっかりリラックスして余裕の表情でいるのが遠目からでもはっきりわかった。あるいは福岡に戻ることなしに、ここで一気に決めてしまおうという腹づもりだったのかもしれない。
 目を少し横にやって、3塁側のブルペンの方を見やると、ホークスの背番号20がピッチング練習をしているのが見える。寺原だ。時間にはまだ余裕があったので、ひょいひょいとベンチ横まで降りていって2年目投手の姿を間近で見ることにする。
 すぐそばで見てみてすごく意外だったのは、寺原という選手はそれほど背が大きくないということだった。夏の甲子園で155キロを出した豪腕投手、入ったときからおっさんみたいな顔をした身体のでかい選手というイメージがありすぎるぐらいあったのだが、意外なぐらい上背がないし、体も思ったよりだいぶほっそりとしている。きっと一時期より大幅に絞ったのだろう。ついでに顔も良くなった(ように見える)。あとでプロフィールを見たら身長が179とあったけど、実際にはもっと低いかもしれない。寺原よりも付きっきりでセット・ポジションのチェックをしている尾花コーチの方がずっと背が高かったくらいだ。やっぱりものごとというのは実際に見てみないとわからんもんだな、などという感慨をあらたにする。
 でもさすがは速球投手、球は速い。真横で見ていたけど、速すぎるので何がなんだかさっぱりわからなかった。150キロ出ていると言われればそうかなという気がするし、135しか出ていないと言われればやはりそうかなと思ってしまう。素人にはその辺の違いがぜんぜんわからない。しかしブルペンキャッチの真横に立った尾花は何かが不満らしく、しきりに首をひねったり何ごとかを耳打ちしたりしてだいぶ長いこと寺原のそばを離れなかった。尾花のしぐさを見ていると、セットのときに体重が乗らないのかもしれないし、あるいはコントロールにばらつきが出ているのかもしれない。しばらく見ていたけど、当の寺原もいまひとつ目に力がない。何かが違うというか、どこかに自信が持てない様子に見える。結局寺原はシリーズを通していちども登板機会がなかったから、あるいは最後までここでの課題を修正できなかったのかもしれない。せっかく間近で見たのだから一度くらい投げてほしかったなというのが正直な感想だが、そんなことを言ったところでどうなるものでもない。まあこれを糧にまた来年がんばってください。

 グラウンドにはホークスの選手たち以外にも、カメラやマスコミ関係者が大勢入り込んでいたのだが、投げ込みをしている寺原の姿を見ている一団の中に、元ホークスそしてライオンズの秋山幸二の姿が見えた。ノータイのシャツの上に革ジャンを羽織った秋山はどこからどう見ても間違いなくかっこいい。背もぐっと高くて姿勢が良い。生まれるのがあと10年遅ければ松井稼頭央なんかのようにメジャーに行って活躍していたスター選手だが、引退したあともその独特のオーラのようなものは消えずに残っているみたいだ。まわりの人とは持っている雰囲気が違うのでぱっと見分けがついてしまう。
 ついでを言えば、もう40をいくつも過ぎたはずなのに、秋山の頭には抜け毛らしき兆候がまったく見られない。もうあり余るぐらいにふさふさしている。その辺、同じ一流選手とはいえ、掛布や衣笠とはえらい違いである。きっと秋山幸二という人の人生には、抜け毛という概念は生まれつき存在しないのだろう。あれだけ野球がうまくてかっこよくて、そのうえ野球選手にありがちな抜け毛の問題にも無縁だなどというのは、これはもう誰がなんと言おうと不平等の極みである。まったく才能というのは激しく不公平なものだなあとしみじみ思う。うらやましい話ですね。才能というのは油田や金鉱と同じだ。あるところには徹底的にあるし、ないところにはどこまで掘り返しても徹底的にない。きっと神の摂理に公平などという文字はないのだろう。決して不満を述べているわけではないのだが、彼のような人を見ていると、そういう一種の理不尽性や不平等性みたいなものについてついつい考え込んでしまうことになる。

 おそらくどこかのラジオのゲスト解説で来ているのであろう、牛島と中日の山本昌の座っているブースの近くを通って自分たちの席に戻ると、金網越しのシーズンシートの端っこに、阪神の外国人選手の家族とおぼしき白人御一行の姿が見えた。はっきりとはわからないが、後列に座っているのがムーアの家族で、前列にいるのがアリアスの家族というところだろうか。前列の中で背番号14のユニフォームを着てとりわけ嬉しそうにしているおばさんはおそらくジョージのママで、膝に抱かれているのがこないだ生まれたばかりというアリアスの娘なのだろう。アリアスの家族は終始和やかに楽しそうしているのに対し、ムーアの家族(たぶん)の方は比較的クールに試合を見ている対比がなんとなくおかしかった。せっかくの晴れの舞台なのだからもう少し賑やかにやってもいいのになと思わなくもなかったのだが、彼らにとってはそんなことは余計なお世話かもしれない。

 両チームの先発は当初の見込みどおりムーアと和田。和田はどれくらいすごいのかいちど生で見てみたいと思って楽しみにしていたのだが、はっきり言って予想以上だった。テレビでちゃんと見たことがなかったので、新垣とは対極にある軟投型のピッチャーかと勝手に想像していたのだが、1巡目はストレート主体に組み立ててきたのでいささか面食らう。特に圧巻だったのが、1回裏の今岡、赤星、金本の3人を揃ってフライに仕留めたところ。球速は138しか出ていないのだが、3人揃って真上に打ち上げるということは、よほどボールが手元で伸びているのだろう。4年前の松坂のときもそうだったけど(このときはテレビで見たのだが)、実力のほどを計る分には1回裏の投球だけでじゅうぶんだった。ルーキーながら14勝をあげた実績はぜんぜん伊達じゃなかった。ダイエーならばともかく、阪神の打線がこのピッチャーを打ち崩すのは決して簡単なことではないだろう。
 そして案の定試合はダイエーのペース。一方の和田がストライク先行で安定感抜群なのに対し、もう一方のムーアは立ち上がりから制球がばらついて、いまいちピリッとしない。ピッチャーがもたもたしてる上に打線はまるっきり音無しなので、スタンドのほとんどを埋めた阪神ファンにとってはイライラばかりが募る展開。ダイエーのリードはわずか1点なのだが、その「わずか1点」がその2倍にも3倍にも大きく感じられる。
 そんな苦しい展開にもかかわらず試合は1-1で進み、7回にはレフトスタンドのごく一部を除くすべての箇所で狂ったように六甲おろしが鳴り響く。ざっと見渡してみてもスタンドの97%は阪神ファンの黄色に染まっている。まったく何という割合だろう。風向きが良い日には、ここから2キロ離れた西宮の辺りでも甲子園の歓声が聞こえるというから結構すごい。ファンの応援が10人目の野手だという話はもううんざりするぐらい聞いたけれど、たしかにこの熱狂的な応援のせいか、城島をはじめダイエーの選手たちがどこかその実力を出し切れていないという感じは、スタンドから見ていてもありありと伝わってきた。やはりファンの力、そしてホームの地の利は大なりである。もっとも、まえにも少し書いたとおり、僕自身はこういう集団的な応援というのはあまり好きになれないのだけれど。どうも生理的に合わない気がする。なんでかなあ?

 たしかに甲子園はすごかったけど、でも僕が本当にホームを実感したのは、このあとの第4戦だった。
 この日の夜、僕はこの近くに住んでいる従兄弟といっしょに西宮の近くの回転寿司の中にいて、ふたりであれこれ話しながらお店のテレビで4戦目の試合を見るともなく眺めていた。ゲームは途中までは楽勝ムードだったのだが、8回に逆転されてからは、お店の中にもすっかりあきらめムードが漂っていた。あーあ、やっぱりダイエーのほうが強いのか、これでこのまま終わりかな、というように。逆転されてからは真剣にテレビを見ている人はひとりもいない。僕だって半ば以上あきらめていた。
 しかしその裏にアリアスのヒットで阪神が同点に追いつくと、途端に店じゅうがわあっという大きな拍手に包まれた。カウンターの板さんまでがテレビのある方にダッシュして食い入るように画面をみつめている。すごい、なんだかよくわかんないけどすごい。よもやこんなところでこういう一体感を感じることになるとは。
 思わず仕事中に身を乗り出した板さんが、「お客さんがみんな阪神(ファン)でよかった」ってなことを言ってたけど、さすがは関西、地元なんだなあって思った。本当にチームが地域に根付いているんだということを肌で実感できた、僕にとっては実に得がたい瞬間でした。こういうホームの感覚ばかりは、東京では体験できないからね。

 ともあれ、今年はいい日本シリーズを見れてよかったです。ワールドシリーズの方もこれぐらいおもしろきゃ言うことなかったんだけど、まあそこまで言うのは求めすぎというものですね。でーは。

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