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2004/04/04

35.数字

 先月の12日と13日に、横浜で官民協働のひきこもり電話相談(ホットライン)があって、その2日目の方に、最後の方だけ顔を出してきた。どうせだから相談を受けている現場をじかに見てみたかったのだが、終わりの時間を30分間違えていたせいで、僕が行ったときにはすでにあらかた後片付けが終わったあとだった。時計は午後の8時をすこし回っている。

 椅子や机の撤収が終わってから、みんなでわらわらとエレベーターの方へと向かう。やたらと動きののろいエレベーターが来るのを待っているあいだ、僕は何の気なしに、「きのうは(相談が)24件だったみたいですね」ということを言ってしまった。べつに今回はずいぶん少なかったですねということが言いたいわけではなかったのだが、エレベーターがちっとも来なくて間が持たなかったし、たまたまそんな話を別口で聞いていたので、ついそんなことが口をついて出たのだと思う。
 すると、この界隈で長く活動されているある方がすかさずこう言った。「ううん、でもね、今回の相談では、いままでどこにも相談できなくて困っていたという方もかけてこられたの。そういうのって、とっても大事なことだと思うの」。
 それを聞いて、この人すげぇなっていうか、えらいなって思った。僕なんかだと、やっぱり相談件数が少なかったらがっかりするし、自分の価値が否定されたようにだって感じてしまう。何件の相談があっただとか、どれだけの人が例会に参加したかというのを、つい自分のスコアや評価と重ねて考えてしまう。数が多ければ多いほど価値があったように感じる。
 でもこの人は違った。彼女の言葉には迷いがなかったし、かといって僕のことばを糾弾しているというふうでもなかった。何件の相談があったかということよりも、その1件1件の中にどれだけの価値があるかを大事にしているような、そんな佇まい。そのあとも彼女は、ほかの誰かが今回の相談件数のことを口にするたびに、同じようなことを繰り返し述べていた。怒るふうでもなければ嘆く気配でもなく、ただ切々と。自分の思いとして。

 僕も身に覚えがあるけど、どうしても数字や結果が欲しくなる。目に見えるかたちや成果が欲しくなる。自助会を始めた最初の頃なんかは特にそうで、会合の中身がどうかということよりも、何人の人が例会に来てくれたかの方にばかり意識が行っていた。目安の15人を越えると安心する傍ら、ひと桁だったりすると、そのあと1週間真剣に落ち込んだ。「あそこは流行ってない」と思われたくないがために、脈のありそうな友だちに「一緒においでよ」的メールを撒いたり、ほんの一瞬来て帰った人まで参加者の中に入れて数えたことだってある。
 そういうのは自助会を離れたいまでも、バカらしく救いがたいほどに残っていて、たとえばいまの会で自分が当番のときに人が少なかったりすると、妙に自分を否定されたような気分になるし、よその集まりの話を聞いたときには、つい習慣的に「そこはだいたい何人ぐらい来てるんですか?」と訊いてしまう自分がいる。もちろん、そこがどれくらいの規模でどんな雰囲気なのかをつかみたいというのも大いにあるんだけど、帰ってきた数字が思ったより多いと「むむっ」という気持ちになるし、逆に少なければ「ふふん、そんなものか」と考えてしまう。他人のHPよりも自分のとこのカウンターの回りが早いと、「よし、勝った」と思う。これはいまだってそうだ。

 最初のうちはそれでもいいと思う。数字のことはどうしても気になるものだし、そこがどういうところなのかをこれからの利用者に提示する上でも、数字の把握と公開は必要だと思う。サクラの要素だって、半ば必要悪みたいなもんだ。
 しかし、それがいつまでも続くようだとしたらこれはどうなのか。講演会や定例会の回数、いままでどれだけの人を「治療」してきたか、支部はいくつあって、会員数はどれだけいるのかといった数字を強調したがるところはいくつもあるけど、ああいうのは果たしてどうなんだろう? あのこれ見よがしの数字の羅列は、何か別のものを訴えかけているように僕には見える。自分たちの組織がいかに大きなものであり、それがどれだけの成功を収めているか。そこで自分がどの位置にいて、どれだけの“成果”をあげてきたのか。そこでの自分の功績がいかに大きなものであるのか……。

 少しは自覚的でありたいと思う。何かを理解していることと、それを目に見える何かに変えていけることというのはまた別のことだけど、せめて自覚だけはしておきたい。考え方のひとつの指針として、また自らへの戒めを込めて。数字はたしかに数字だけれど、やはり数字でしかないのだ。うーん、自分でも何を言ってるんだかよくわかんなくなってきちゃったけど、まあいいか。

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