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2005/12/15

86.結婚式顛末:その1

 こないだの結婚式のことをちょっと振り返ってみる。

 10月7日の結婚式の2週間ぐらい前からずっと緊張していた。別に自分が主役ってわけでもないのに、やはりどこかで緊張してた。その理由はいたって簡単。結婚式というものに出るのが初めてだったから。スーツとかその手の着慣れないものを着るのが億劫だったから。慣れない場所に慣れないものを着て出かけるというのは結構しんどいものだ。それがなんであれ、それがどこのどういう居場所であれ。
 結婚式にはこれまで過去3度招待されたことがあるのだが、そのすべてを辞退させていただいている。どれも高校からの友達の式で、気持ちとしては出たかったのだけど、それはそれ、これはこれである。やはりこういうのは苦手なのだ。そういう不義理キャラで通してしまうと「あいつはもうそういうやつだから」ということで大目に見てもらえる……というのは甘い見通しかもしれないけれど。「あいつはカラオケ行かない人だからしょうがないよ」みたいにね。
 だが今回ばかりは事情が違った。新郎新婦の片方だけではなく、両方が友達なのだ。結婚式が苦手だからといって、この期に至ってまで不義理を重ねてしまっていいものかどうか。いや、不義理云々以前に、「この二人の式だったら出てみたい」という気持ちがあった。あるいは30を過ぎて、自分の気持ちに変化が訪れたのかもしれない。きっとそういう季節が来たのだろう。そう、変化の季節。

 で、式に出ることにしたのはいいものの、やはり懸念は服装だった。最初はダーク系のデニムにジャケットを合わせて逃げ切ってしまおうかとも考えたのだが、聞けばパーティーの会場はホテルなので、それなりのカッコでないと浮いてしまう可能性があるとのこと。スーツは嫌だが、慣れない環境で一人だけ浮いてしまうのはもっと嫌だ。困る。そんなこんなで、やはり苦手だけれど着てくもん着てかなきゃならないのかなあと自分なりに観念しはじめた。憂鬱であることはたしかだけれど、しかし遅かれ早かれ、どうせいつかは着なきゃならないのだ。それなら今でもあとでも同じことじゃないか。そんなことを考えた。
 「ひきこもり」を経験した人なら大概がそうだろうけれど、結婚式などに呼ばれたことのない人が多い。あるいは断り続けてきた人が多い。そんなのバツが悪くって出られたもんじゃない。当然、逃げ回るのがスジだ。実際今回も、結婚式に出るのは初めてという人や、中にはスーツを着ること自体がはじめて(もしくは2回目)という人がかなりいた。ひきこもり界隈で知り合った二人の式であるゆえ、参加したひきこもり経験者の人数も結構なものがあった。10人とか、15人とか、それぐらいはいたのではないか。いや、当の二人ばかりか司会の二人までもがひきこもり経験者だったのだから、20人は下らないかも。考えてみればすごい話だ。ひきこもり界隈におけるエポック・メイキングと呼べるかもしれない。きっとどっかの誰かが歴史書に記録しておくべきなのだろう。当日はビデオも回していたけど、それってわりに貴重な資料かもしれない。

 話を戻す。やはり服装のことは心配だったから、これはいろいろな人に相談した。まず列席者の名前をわかるかぎり教えてもらって、そこから同じことで悩んでそうな人を幾人かピックアップして電話をかけた。つまり作戦会議。案の定みんな何を着てけばいいのかということにはずいぶん頭を悩ませていたから、この相談はずいぶんと役に立った。みんなの心配を要約すれば、フォーマルな服はほとんど着たことがない(あるいは持っていない)けれど、でも浮いてしまうのは絶対に嫌。ではやはりスーツか? 色は黒でないといけないのか? 色シャツはOK? ネクタイの色は? パーティーの形式は立食なのか、着座なのか。大まかに言えば、大体はそういうところだったと思う。心配の種は尽きない。でも一人で悶々としていても埒はあかないので、そういうときはとっとと相談する。電話をかける。それがここ最近のやり方なのです。一人で生きるのはもうじゅうぶん。孤りでいることに関してはもういっぱしの専門家なのだ。権威なのだ。いまから少しぐらい違うことをやってみたって特に罰は当たらないだろう。

 で、遂にあきらめた。やはりスーツだ。スーツしかない。しかし一方、男子というのは悩まなくていいからある意味楽かもしれない。スーツ着とけば通ってしまうようなところがそこかしこにある。その点女子の場合は難しい。季節のこともある。式は10月。オーソドックスな黒ワンピにストールかなんかを巻いて少し華を添える、あるいはコサージュを付けてそれなり感を押し出す、およそそういったあたりか。でもそれじゃベタかもしれない。10人中7~8人はしてくるかもしれない。人とかぶる。でもだからといって、あまり派手でもいけない。花嫁より目立つのはもちろん×。さらに足元との組み合わせは? その日の天気との兼ね合いは? 気温は? 羽織りものは? そういうことを考え出すと際限なく悩みが広がってしまいそうでしたたか怖い。だからこう考えよう。いろいろ悩まなくて済む分だけ我々は楽なのだと。恵まれているのだと。そう自分に言い聞かせて鏡に向かった。とりあえず手持ち服だけでどうにか切り抜けられるのだろうかと考えながら。

 手持ち服の話。
 式とパーティーに持っていけそうな服の選択肢は3つあった。1つは10年ぐらい前に買ったグレーの3つボタンスーツで、かつて就職活動のときに主力で使ったもの。2つめが法事葬式用に買った黒のスーツ。葬式のたぐいは前触れなく突然にやってくるので、黒のスーツはひとつないと非常に困る。ネクタイを変えれば何にでも使い回しが利くので、これに何かを合わせるというのも選択肢のひとつだ。そして最後が、さっき触れたジャケットの使用。結婚式の2次会程度なら、組み合わせ次第でこれでも乗り切れないことはない。新しく買うのではなく、ありもので済まそうとするのであれば、このうちのどれかでどうにかという話になる。まずはそこから考えた。
 しかしまずジャケットで逃げ切りの線は消え。いちばんカジュアルで気分的に落ち着く気はするのだが、場所柄を考えればリスキーな選択であることは否定のしようがない。
 次にグレーのスーツは、いざ鏡に向かってみるとおよそ使えない代物であることが判明した。なにせシルエットが太いのだ。ライン全体がかなり太い作りだし、肩パッドは入るわ腰は絞らないわ脚も太いわでまるでヤクザみたい。最近の流行りは比較的細めの、腰をシェイプしたようなラインのものが主流なので、その点これはかなり実用にはきつい。同じスーツとはいえ、10年経つとここまで形が変わるものなんだとこのときはじめて認識した。マジな話、これで黒のサングラスとかかけたら「哀川翔ですか?」ぐらいの勢いですから。こんなのを着てくだけの勇気は自分にはない。よってこれも選択肢から削除で話は決まりである。
 で、最後に残ったのが黒スーツに色シャツという組み合わせなのだが、しかし何かが物足りなかった。黒無地という無難さ退屈さもその一因なのだが、何よりスーツのシルエットが(グレーほどではないものの)太めで、いまひとつ納得しかねるというのがその理由だった。もちろんこれでもこのままいけないことはないのだけれど、でもどうせならもう一歩進めてどうにか……というのは気持ちとして残った。ゆえにこの時点で選択肢は、(1)黒無地のスーツに何かを合わせる。(2)いっそこの機会に使えそうなものを買ってみる。この2つに絞られた。どっちにするか、それをこれから考えなければならない。

 問題はカネだ。いっそこの機会に使えそうなものを買うというのがベストな選択であるのはよ~くわかっていたのだが、しかしそのためには当然カネがかかる。2プライスのところでスーツ3万+小物と考えても、単純計算で4万は必要になる。これをありものの黒無地に何かという考え方に変更するのであれば、シャツとネクタイだけで1万弱あたりで抑えることができる。この4万と1万の差は言うまでもなくでかい。もちろん自分としても安く上がるほうが現実的にはとても助かる。月に30万とかを稼いでいるわけでは決してないのだ。ここはたしかに思案のしどころである。

 しかしそれにしても、あれほどまでに嫌っていたスーツを、しかも自分の稼ぎから捻出して買おうというのだ。まったく自分はいったいどうなっちまったんだろうなとつくづく思う。人間変われば変わるものだ。
 そして数日間にわたる熟慮と長考の結果、ありもので済ますのではなく、この際いっそ新しく買ってしまおうということで腹を決めた。ヘンな妥協のままコトを済ますのが性に合わなかったからだ。毒を食らわば皿まで。いい機会だ。この際少しでもいから新しい一歩を踏み出してやろうじゃないか。きっとそういう季節なんだよ。

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