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2006/07/23

96.刺青/やりつくすまではやる

 「ひきこもり経験者」ということで、自分の経験談をお話する機会をいただいています。場所は比較的大きな講演会であることもあるし、比較的小規模の家族会であることもある。自分がサポーターとして応援させていただいている家族会でちょこっとばかりコメントさせていただくこともあるし、話す現場は保健所の家族会や民間の勉強会ということもあります。まあなんというか、場所についてはいろいろですね。


 最近ではゲストとして話すだけでなく、企画側にまわってゲストの方々との交渉やセッティング、話の振り役である「コーディネーター」の位置に入ることもあります。すでにそれが仕事の一部みたいになっているわけです。これはいままで培ってきた経験や人脈がこういう形で生きているというのもありますが、それよりなにより、やっててなんだか楽しいんです。
 たとえば迷惑メールの発送業者など、世の中には人に迷惑をかけることで成立する仕事もありますが、でも今のこの仕事(全然本業ではないし、本業にするつもりもありませんが)はやはり人に喜んでもらえる。こういうのってやっぱり嬉しいもんです。手応えというものがあるし、やってよかったなって思える。そういったことが非常にしばしばあります。人に喜んでもらえるから、そして何より、やってて自分が楽しいから、だからこういう活動が続けられるのでしょう。いくらなんでも、しんどいだけのものだったら続けられないよ。だいいちこういうのは大してカネになる仕事ってわけでもないんだしね。


 以前のある時期には、こういう活動って自分の過去を切り売りしているみたいで嫌だなと思っていました。早くこういうのは卒業して次のステップに進みたいと思っていました。<早く逃げたい/卒業したい>。いつまでも「ひきこもり業界」にひきこもっているのはやめて、早く外の世界に出ていきたい。そう切に願っていました。そしてそれはたしかに重要で必要なことです。それは僕にとっても、僕のまわりの多くの人たちにとっても。
 でも話はそう簡単ではなかったみたいです。30を過ぎたあたりから少しずつある種の諦めがついてきました。そう、<ひきこもり>というのは一生自分についてまわる生き物なのだと。逃げ切ることはできないのだと。「かつて自らの人生に挫折して社会からひきこもった」という過去はいまさら消しようもないし、いまとなっては消すつもりもない。だって、それを否定してしまったらいまの自分はないわけですから。好むと好まざるとにかかわらず、僕という人間はここにしか辿り着かなかったのだし、結局のところここから出発するよりほかないわけです。いわば刺青みたいなもんです。それを人に見せるか見せないかの違いだけで。


 2年くらい前のある講演会で、僕の友人が語り部としての引退宣言をしました。「今までいくつかの場所でお話をさせていただいてきましたけど、自分の経験をこうしてみなさんの前でお話するのはこれで最後にします」、と。それを聞いて僕はとてもとても驚いた。もうそういうことはじゅうぶんやってきたし、もうこれからは新しい世界に進みたい、そういう時期が来たんだ。いまはこれから来る新しい世界にとてもわくわくしているし、そのことが楽しみなんだ。そう語る彼女の言葉を僕はただ呆気にとられて聞いていました。なぜって、それこそは正に自分が求めていたことであり、なかなかその境地に到達しない自分をもどかしく苛立たしく感じている最中のことだったから。


 そしてあるとき、「こういうのって自分の過去を切り売りしているみたいで嫌だ/早くこの業界から抜けたい」とこぼす僕に、その彼女はこんなことを言ってくれた。
 「そういう気持ちは私もわかるけど、でもおかもっちんの場合はもうちょっと気が済むまでやったほうがいいんじゃないかな。何かを中途半端に残したままにすると、そういうのって結構あとあと尾を引いちゃったりするからね」
 もう2年も前のことなので正確なところは覚えていないけれど、彼女の言わんとしたことは、おおよそこの辺りのことだったと思う。


 そしてそれ以来、どこか自分で気持ちに整理がつくようになった。たしかに言われてみれば、「嫌だ嫌だ」とか言いつつも、まだ不完全燃焼で燃え尽きていない自分がいる。話し終えて家路につくたびに、「ああ、今日はうまくいかなかった。もっと上手く話せたはずなのにな」と悔しくなる。「次はもっと上手く」と切に願う。前回の落とし前をつけたくなる。だからこそ「今度こそ」と思って再び壇上に立つわけだ。もちろんそう思ったからといって、実際に「落とし前」をつけられたためしなんて全然ないんだけれど。


 もちろん本意ではない。早く離れたい。それがいつになるのかもわからない。でもはっきりと自分の気が済むまではこの活動を続けようと思う。自然にこの世界から離れられる日が来るまで。満ちた潮が引き際の鐘を打つまで。

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